あいにくですが、エリート御曹司の蜜愛はお受けいたしかねます。
付き合い始めたわたしたちは、お互い実家暮らしでずっと一緒にはいられなかったけれど、その代わり色々な場所でのデートを重ねた。
ホテルでの豪華なディナー、テーマパーク、温泉旅館、観光地。
学生の時には味わうことの出来なかった大人なデートとスマートなエスコートに、わたしはすっかり虜になった。
そんな大人の男性の魅力にあふれた彼のことがわたしはどんどん好きになっていき、それと比例するようにいっそう自分磨きに励んだ。
彼の好みのファッション。彼が求める女の子らしさ。
たまにお菓子を作ってプレゼントしたりもした。
それこそ彼の好みそうなことはなんでも。セックスだって、彼の望みに出来るだけ応えた。
彼の気持ちを自分に留めておけるよう、出来る努力は全部したつもり。
それが本来の自分とズレていても、そんなことにが気にもならないくらい、わたしはふわふわと夢の中にいるように浮かれていた。
付き合って二年経ち、わたしは二十六、斎藤は三十。年齢的にも交際期間的にも頃合い。
おのずと『結婚』の二文字が頭にチラつき始め、『今度のクリスマスは、もしかしたら……』なんて浮かれていた十二月の始まりだった。
彼が突然『結婚宣言』をしたのは。