あいにくですが、エリート御曹司の蜜愛はお受けいたしかねます。
それって体の相性!?

なんて、反射的に警戒した時。

「ビールが苦手な僕と得意な静さん、甘いものが苦手な静さんと得意な僕。お互いの苦手を補え合えてちょうど良いだろ?」

なんだ、好き嫌いの話の続きか。

アキが無理やりわたしをどうにかするなんて、本当はもう思っていない。そのつもりなら、そもそもとっくの昔にやれている。

それなのに、一番最初(はじめて)の夜以外はスキンシップに毛が生えたレベルのことしかしていない。お育ちの良いドラネコは、きちんと『マテ』が出来るようだ。

けれど、それでも完全に油断することなんて出来ないと思ってしまうのは、わたしが男性というものを信じていないからかも。(オス)というのは、本能には抗えないものなのだから。

わたしは一回寝たからと言ってそのままなし崩し的にセフレになるほどチョロくない。

だったら、もうこれ以上流されないようにしなければ。御曹司の気まぐれに振り回されて後で泣くなんて、そんなベタな展開にはまるつもりはさらさらない。


「別にわたしの苦手は直してもらわなくて結構よ」

そっけなく返したわたしに、アキは「ふふっ」と笑って「お役に立てそうになくて残念だよ」といい、もう一度布団をポンポンと叩いてから立ち上がった。

「じゃあ僕はもう帰るから。ゆっくり休んで、静さん」

「え、帰るの?」

「うん。その方が静さんもゆっくり休めるだろう?鍵はドアポストに入れておくから、目が覚めたら回収しておいてね」

「う、うん……」

わたしが頷くと、彼はそっとわたしのメガネを外しサイドボードに置くと、「おやすみ」と頭を撫でて寝室から出ていった。

少しの間彼がコートを着る衣擦れの音やドアの開閉、そして鍵が回る音に耳をそばだてていたけれど、最後にドアポストに鍵がぶつかる音を聞いたあと、わたしは眠気に身を委ねた。


(わたしには甘いものなんて必要ないんだから……)


そう思ったのを最後に、ゆっくりと深い眠りの中に沈んでいった。





【Next►▷Chapter5】
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