年上王子の不器用な恋心

「!!!」

ドキッとした。

昨日、たくさん泣いたので次の日は目が腫れてしまうかも知れないとは思っていた。
案の定、見事に目が腫れてしまい、メイクで誤魔化すには限界があった。

『クローバー』の人たちは、私の顔を見て驚いたはずだ。
昨日の今日だし、顔もひどい状態だから仕事に行くのも憂鬱だった。
それでも社会人として休むという選択肢はなかった。

今日はバックヤードで事務処理をしていたので、お客さんにこの顔を見られることがなかったのが唯一の救いだ。
泣き腫らした顔で接客とかあり得ない。

みんな私が泣いて目を腫らしていたというのは気づいていたと思う。
だけど、何も触れてこないのはみんなの優しさだ。

でも、石橋くんだけは違った。
ズバズバと言ってきて、そのことがなぜかありがたかったりした。
普段、女性とほとんどしゃべらない石橋くんが話しかけてくれたのも、彼なりの優しさなんだろう。

「石橋くん、ありがとう。もう大丈夫だよ。昨日、ちょっと辛いことがあったけど散々泣いたらスッキリしたから」

本当はまだ引きずっているけど、石橋くんの前では笑顔を見せた。
その笑顔がハリボテだと気づかれていたのかもしれない。

「それならいいんですけど……」

あまり納得した様子ではなかったけど、石橋くんはそのことに触れずにオムライスを食べ進めた。
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