年上王子の不器用な恋心

亜樹には中学の時から気になっている人がいた。
もしかしたら同窓会で会えるかもしれないという淡い期待を込めてやってきたけど、残念なことに店には来ていないということが判明した。
亜樹は早々に気持ちを切り替えて食に走った。
中三の時のクラスの同窓会、集まったのは半分の人数の十五人ぐらい。
それでもかなり集まった方だと思う。
早く帰りたい私と、お目当ての人がいなかった亜樹の意見が一致し、一次会で帰ろうということで話がまとまった。

「ちょっとトイレに行ってくるね」

亜樹に耳打ちして席を立つ。

実は『クローバー』という店は私の職場だ。
私は高校の時からこの店の常連で、マスターの人柄とお店の雰囲気が気に入り、働くなら『クローバー』と決めていた。
まずはバイトをしようと考え、親に話したら当然のように反対された。
一人っ子ということもあり、両親ともに心配症で、お酒を出すお店というのが引っかかったらしい。

昼は普通にランチメニューを提供したりカフェだからと言って、一度お店に母親を連れてきた。
お母さんは『クローバー』のマスター、後藤さんのダンディさにメロメロで、昼間のカフェならというお許しが出た。
バイトを経てこの春に正社員として採用してもらったんだ。

まさか同窓会の場所が『クローバー』とは思わなかったけど。
用を足して個室に戻ると、お開きの時間になったのかみんな帰り支度を始めていた。
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