本能レベルで愛してる~イケメン幼なじみは私だけに理性がきかない~

αの憂鬱 side紫音

◼️αの憂鬱 side紫音

 道を歩けば、バカみたいな顔した人間が、ほいほい俺に媚を売ってくる。

 ただフェロモンが作用しているだけだというのに。視線の何もかもが気持ち悪い。


 自分が普通の人間と違うことに気づいたのは、小学一年生になったときのこと。

 幼い頃は色んな人と関わった方がいいという親の考えで、俺は公立の小学校に入った。クラス分けがされたその日、女子からも男子からもやたらと視線を感じていた。

 そして、それは気のせいなんかではないと、両親からもはっきりと告げられる。俺は特別な人間と言われているαで、人から注目を浴びることが多くなる人種なのだと。

「ねぇねぇ、紫音君、これチョコ作ってきたの。食べてくれるかな……?」
「ちょっと、抜け駆けしない約束だったじゃん! 紫音君、今度の給食当番同じ班になろ!」
「そっちこそ抜け駆けじゃん! 紫音君はみんなのものなのに!」

 毎回学校で繰り返されるくだらない喧嘩。
 そんな風に、小学生のときから巻き込まれる面倒な争いに疲れ果てていた頃、隣の家に新しい家族が引っ越してきた。それが千帆だった。

 同い年の女子で同じ小学校に通うことになると聞いた時は、面倒だという気持ちしかなかった。

「はじめまして、花山(はなやま)千帆です」

 大きな丸い瞳に、腰まで伸びた長い髪。白くて小さくて、なんか動物みたいなやつだな、というのが第一印象で。

 花山家がうちに挨拶に来たときも、俺はすぐに目を逸らし、そっぽを向いて関わらないようにしていた。

 母親はちゃんとあいさつをしろと怒っていたけれど、そんなことしたって意味はない。俺は誰とも友達になるつもりなんてない。

 俺はかなりそっけない態度を取ったはずなのに、千帆は能天気なのか天然なのか、まったく空気を読まずに何度も俺に話しかけてきた。

「紫音君、一緒に学校行こー」
「……ひとりで行けばいいだろ」
「先生が私と紫音君は同じ登校班だって言ってたよ」
「そーかよ。勝手にすれば?」
「うんっ、勝手にするー」
 
 なんて、中身のない会話をし続けて毎日が過ぎ、毎朝千帆は能天気な顔をして、冷たい態度の俺についてきてくれた。

 そうするうちに、少しずつあることに気づいていく。
 なんだか千帆は、ふつうのクラスメイトとは違う気がする、と。

 視線が気持ち悪くない。よくわからない一方的な押し付けがましい好意も感じない。

< 5 / 103 >

この作品をシェア

pagetop