本能レベルで愛してる~イケメン幼なじみは私だけに理性がきかない~

理性と本能の間

 新緑の葉があっという間に黄色く色づき、秋が訪れた。

 毎年この季節になると、気持ちが憂鬱になってくる。

 なぜなら、伊集院家主催の大きなパーティーがあるからだ。

 うちは多岐に渡り事業を展開しているが、メインはホテル経営で、いくつもの高級ホテルを所持している。

 各取引先や著名人を集めて開かれるこのパーティーは五百人規模で、幼い頃から強制的に参加させられていた。

 父は俺を次期跡取りとして挨拶回りをさせ、俺も取引先の顔と名前を覚えることに全神経を使う。

 登山でも全く疲れない俺が、唯一体力を消耗する日ということだ。

「紫音、今年もパーティーが近づいてきたわね」

「母さん、まだ全然準備してないみたいだけど、大丈夫?」

「あー、本当に面倒だわー。お母さん、その日腹痛起こさないかしらー」

 海外から取り寄せたという、百万円以上はする革張りのソファーに母は大の字になって座っている。

 俺はコーヒーを片手に、そんな母を見下ろしながら通り過ぎて、窓際にあるロッキングチェアに腰掛けた。

 αの父に一目惚れされて結婚したΩの母は、結婚するまでは父が通っている美容院で働いていたと言う。

 今までモテ倒してきた父は、女性の顔が全員野菜に見えると言って、ずっと独身を貫くと決めていたらしいが、母だけは人間に見えたらしい。この話は何度聞いてもよく分からないが。

 母は戸惑いつつも、あまりにしつこいアタックに気圧され、お試しで付き合い始めたのだとか。
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