官能一夜に溺れたら、極上愛の証を授かりました
 店舗の外に出しているスタンド看板を仕舞い、シャッターを下ろそうとしていると、国産の黒いセダンが店の前に停まった。お客様だろうか。様子を窺っていると、運転席から背の高い男の人が出て来た。

「もう閉店ですか?」

 男性は途中まで降りたシャッターを見ると、残念そうに肩を落とした。

 年齢は、三十前後くらい。ハッとするほど整った顔立ちに、仕立てのよい三つ揃えのスーツを身につけている。忙しい中、仕事終わりに慌てて来たのだろう。顔は疲労の色が濃く、きっちりとセットしていたらしい前髪も、強い湿気のせいかはらりと乱れている。

「いえ、まだ大丈夫ですのでどうぞ」

「よかった、ありがとうございます」

 私が言うと、その人は安堵のため息を吐いた。


「……すみません、やはりもう閉めるところだったんですよね?」

 明かりを落とした店内を見回して、彼が申し訳なさそうに言った。

「いいんです。今日は雨のせいかお客様が少なくて、いつもより早く閉めようとしてただけなので。お客様が来てくださって助かりました。……行き場がないのは、花たちもかわいそうですし」

 誰かに買い求められることなく咲き終わりを迎えてしまった花は、ドライフラワーなどに使うこともあるけれど、大半が焼却処分される。市場から花を迎えて、少しでも長持ちするよう心を込めて手入れする分、自分の手で片付けなくてはならないのはとてもつらい。

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