官能一夜に溺れたら、極上愛の証を授かりました
『常務、それに奥様が』

 連絡を受けすぐに病院に駆け付けた母も、想像もしなかった事態にショックを受けているという。

『お側についておられた方がよろしいかと』

「……わかった、すぐに病院に向かう」

『いえ、タクシーを手配します』

「直接自分で行った方が早いだろ」

『あなたにまで何かあったら困りますので』

「何かって……」

 菅野に言われて気がついた。いつの間にか、スマホを持つ手が震えていた。

「――わかった。病院で落ち合おう」 

 菅野の手配したタクシーですぐに病院に駆けつけたが、間に合わなかった。

 対面した父はすでに体温を失い、苦しんだというわりには穏やかな表情で病室の冷たいベッドに横たわっていた。

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