13番目の恋人
「そろそろ、ソファに座っていい?」
そう訊いた彼に、吹き出した。笑ったお陰で、少し気持ちも和らいで、私たちの空気も張りつめたようなものではなくなった。

後で、ということは、後で、そうなるのかなって思うとまた少し緊張してしまうのだけど。
 
「コーヒー入れなおしますね」私も立ち上がった。
「あ、そうだ。何が好きかわからなかったから、適当に買ってきたんだけど……あれ? 」

彼がキョロキョロして、何かを探す。
 
「なんですか? 」
「洋菓子の詰め合わせ、持ってきたんだけど……あ……玄関に置きっぱなしだった」

少し抜けてる野崎さんに笑う。
 
「じゃあ、いただきます。テーブルしか、ないんですけど」
「ああ、そうだね。でも、なんだかこれもいいなって気持ちになってきたなあ」

 野崎さんが椅子のないラウンドテーブルに買ってきた物を広げてくれた。私も、これもいいなって思ってきた。
「ラウンドテーブルっていいですよね、隣でも向かいでも自由自在で。距離が近……」
 
見上げると、すぐそこに野崎さんの顔があって、やっぱり触れたいと思ってしまったので、テーブルのカーブに沿って、ほんの少し動くと、私の肩が野崎さんにぶつかるところで止まった。
 
そんな私に野崎さんは私の大好きな優しい優しい瞳で笑ってくれた。
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