13番目の恋人
時々ぶつかる肩とか背中にドキドキするけれど、野崎さんは、必死の形相だ。
 
「ぶっ」
「……なに?」
「眉間の皺がすごいです」
「いや、だって、手とか切りたくないだろう」
「あはは!」

そんな必死な割に、切ったじゃがいもは不揃いで
「どうせ潰すからいいんだよ」と、私は何も言ってないのに言い訳をしている。
 
そして、夕食も何とか出来上がって、テーブルへと運んだ。私の作ったのはやっぱりお味噌汁だけなのだけれど、野崎さんは出来上がったものに、満足そうだ。
 
 鰤の照り焼き。野崎さんは鰤が特に好きらしい。
 五目豆。よく見ると四種類しか入ってないから4目豆なのかな?
 タラモサラダ。さっきのじゃがいもはこれかぁ!それから、フルーツトマト。お味噌汁。
 
「椅子、いいね」
「そうですね」

テーブルは、二人分のお皿を並べると、もうスペースがないくらいだ。お料理習いにいこう。繁忙期が終わったら習いにいこう。
 
……あ、繁忙期が終わったら、お別れなのかな。でも、習いにいこう。お味噌汁の他にもたくさん作れるように。
 
彼に食べてもらえるかは、わからなくても。
 
「……食事が終わったら、今日は帰るね」
 彼は、こちらを向かずにそう言った。
 
「はい」結局、ゆっくりもしてもらえなかったし、明日から仕事だ。彼は特別忙しい。だから、これ以上は困らせたくなかった。
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