13番目の恋人
「小百合ちゃんなんて、まだまだこれからでしょう? 」
「これからではありますが、余裕を持てるほど、時間もなくて……」

私の言葉に万里子さんは首をかしげる。えっと、どう説明していいのか……

「いいのよ、無理して話さなくて、とにかく……恋人を探すところからなのね」

万里子さんのこういう気遣いが、大人だと思う。

「好きな人と、付き合いたいんです」
「それは、まあ、普通にそうね。付き合ってから好きになるパターンもあるのかしら……」
「万里子さんは、どうやってお相手と知り合われたのですか?」

……つい、踏み込んでしまったけれど、万里子さんは嫌な顔もせずに、答えてくれた。

「実はね、お見合いなの」

……意外。

「意外、でしょう? 今時よねえ」
「それって、お見合いパーティーみたいな、昨今のものですか?」
「いいえ、昔ながらの」

……意外。

「それで、お相手を好きになれたのですか?」
「そうね、不思議なものね。今では、彼じゃなくてはと思っているの」

万里子さんの顔に、幸せが滲んでいた。

「いいなあ」

そうか、お見合いは嫌なものではないのか。

「やっぱり会う前から、両親も知っているから……なんて言うのかしら、最初から結婚前提だし、最初から後押しされてるからね、その、いいものよ。もちろん、相手によるけれど」

万里子さんも、お見合いで出会えたお相手も幸せなだろうなとピンクのお鍋をかき混ぜていた彼女を思い出して、笑みがこぼれた。
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