新人メイドと引きこもり令嬢 ―2つの姿で過ごす、2つの物語―
《1》
(私が望んだわけじゃない…。でも私は…家のために…)


 彼女はある貴族に嫁ぐ為に、花嫁候補として半年ほどその屋敷に行くことになった。

(会ったこともない花嫁候補をいきなり屋敷に、なんて、普通のことなのかな…?)

 娘は年頃になったばかりで、異性を好きになったことがまだ無い。傾き始めた金持ちの家だったため、求婚をされた事もない。

(貴族様になんて…。「成り上がり」の家の私なんかが…)


 彼女の父宛てに送られてきた手紙と屋敷の場所だけが記された地図。どんな相手なのかは噂しか分からず、彼女は何一つ知らぬまま。

 相手の屋敷に着くと雇った馬車は帰ってしまい、残されたのは荷物と自分一人。

 屋敷の手前に何やら小さめの建物があり、庭園を挟んで、大きくはないが立派な屋敷が建っている。
 その小さめの建物と屋敷は繋がっていた。

(なんだか、変わってる…?)


「こんにちは…」

 娘は屋敷のドアの呼び鈴を鳴らし、声をかける。

 中から出てきたのは無表情な高齢の執事だった。

「はじめまして、私は花嫁候補として参りました、リリシアと申します」

 娘は礼儀正しく裾を少しつまみ上げ、頭を下げる。

「…どうぞこちらへ」


 中に通されると屋敷内には至るところに上品で美しい装飾が施してあった。

(キレイ…でも、あまり見ていたら嫌がられてしまうかも…)

 なんとか周りを気にしないようにして執事のあとについて行くと、大きな扉の前で止まった。
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