新人メイドと引きこもり令嬢 ―2つの姿で過ごす、2つの物語―
「…コーダの紹介か…?」

 主人の言葉に、執事はそちらに向き直り頭を下げる。

「はい、御挨拶が遅くなり大変申し訳ありません。…この娘は私の姪でございます」

「り、リンと申します…よろしくお願いいたします、ご主人様…」

 慌てて娘も頭を下げた。

「…そうか。お前に姪がいたとは知らなかった」

忠実な執事の姪とのことで、主人の警戒は少しは解けたらしかった。

「…リン、そろそろ時間です。本日はもう、帰り支度を」

 執事はこの部屋を早く去るよう、そっと促した。

「通いなのか?」

「は、はい…」

 彼女は下を向いたままなんとか返事をする。

「…この通りの人見知りなので、シェフと叔父である私にしか懐かず、ここにまずは手伝いとして通わせることにしたのですが…」

 執事は無表情のまま、作られた言い訳を主人に告げる。

「そうか、ならば仕方が無い。使用人を取り仕切っているのはお前だからな。早く慣れるよう」

 主人はすぐに認めたらしい。

「…よろしいのですか?」

「何がだ?そこまでお前が気にしてやっているのなら、この娘をしばらくおいてやろう」

「っ…ありがとうございますっ…!!」

 娘は下を向いたまま、嬉しそうにそう言った。


「ああ…!!シェフには注意をしておくべきでした…それにまさか、こんな無茶をなさるお嬢様だとは…!なぜ私を探しにいらっしゃらなかったのです!?…こんな事ならば、姪は辞めさせる、と言っていれば…」

 さすがに執事も彼女を与えた居室に送り届けると、困り果てた様子でそうため息をついた。
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