新人メイドと引きこもり令嬢 ―2つの姿で過ごす、2つの物語―
《3》
 朝、娘の部屋に軽食が運ばれてきた。

「おはようございます…!」

「お嬢様、おはようございます。お食事をお持ちいたしました」

 無表情な執事が挨拶し、テーブルに食事を置く。

「…では、ごゆっくり…」

「ありがとうございます」

 彼女は微笑んでなるべく上品に頭を下げる。
 執事は一瞬何か言いたげだったが、そのまま頭を下げ、部屋を出ていった。

(私、何か変なことをしたのかな…)


 食事を終え、しばらくすると執事が今度は食事を下げに来た。

「あの…」

 娘は意を決して執事に声を掛けた。

「何でしょうか、お嬢様?」

「っ…何か、お手伝いできる事はありませんか??」

「…は?」

 執事は呆然として彼女を見た。

「あ、その…ご主人様の花嫁候補として、ご主人様の為になることがしたいのです。例えば…お茶を入れるとか…肩をお揉みするとか…」

 娘は上流階級の喜ぶ事が良く分からず、自分が思い付いたことを言ってみる。すると、執事は表情が少し穏やかに変わった。

「お嬢様は他で聞く方々とは違い、お優しい方のようですね…。ですが、御主人様は御令嬢からの何かをご所望では無いのです…」

「じゃ…で、では…少し待っていてくださいますか?」

 娘は急いで部屋に付いた脱衣室で髪を結い直し、他のメイドたちに似た紺のワンピースに前掛けを付けた。
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