悪魔と願いの代償
町外れの寂れた屋敷の前に佇む、一人の年頃の娘。
ここは悪魔が棲むと言われ、今はもう近づく者はいない屋敷だ。

辺りは暗く、月明かりだけが照らしている。

「また人間か…俺見たさに肝試しにでもきたか?脅し、逃げ帰るのは見飽きた。」

衣服もすべて黒で統一され、肌は文字通り、血が通っていないように真白。細身の男が、霧のようにどこからともなく現れた。

「あ、悪魔…さん……?」

娘は怯えたように小さく掠れた声で問いかける。顔色は悪く、足は震え、今にも倒れそうだった。

「俺を『さん』付けする人間は珍しい。…何しに来た?」

「あ、あの…お願いがあって来ました……」

「願いか…貧民の娘だな。金か?美貌か?」

少し呆れたように男は言う。すると娘は首をそっと振って言った。

「いいえ…悪魔であるあなたなら、私の願いを聞いてくれるかと……私を少し、生き延びさせてほしいのです……」

「は??」

「私は病気で、長く生きられないと言われているんです…半年持つかどうか、と…。でも私にはどうしても、まだしなければならないことがあって…だから、どうか……!」

娘は必死に頼んだ。しかし悪魔と呼ばれる男はバカにしたように娘に言った。

「悪魔なら出来るだろうとわざわざきたのか。お前もどうせ、自分の為だろう。」

「それは……」

「バカな人間だ、悪魔に頼み事をするなんてな…ま、願いは一つだけだ。代償はもらうぞ?」

言い淀んだ娘を気にする事なく、悪魔は楽しそうに考えを巡らせている。

「そうだな…どうせお前に生気を与えてやるんだからな…」

悪魔は娘のすぐ目の前にいる。にやりと笑うと、すぐさま真顔になり、何でもないことのように娘の顎に手をやり、娘の唇と自分の唇を重ねた。

「っ…!!」

娘は気づいたようにハッとすると、顔を赤くして口に手を当てた。

「なんだ、まだキスだけだ。倒れそうなのを今くらいは動けるようにしてやっただけ。キスくらい何も気にすることは無いだろう。」

「そ、そんな……」

「…そうか、お前……」

悪魔はさらに唇を歪めて笑うと、何も出来ずにいる娘を抱きあげて屋敷の中に入った。
< 1 / 8 >

この作品をシェア

pagetop