悪魔と願いの代償
……


「苦しい…!!っ…あの方に、お礼をしたいの…!お願い…まだ殺さないで…!!」

「…そんな…!この俺が…!!うわぁぁぁ……!!」

悪魔は苦しみ、何も耳には入らない。娘を苦しめ続けた霧は次第に晴れていった。

「ああ!!あぁぁ…ば、バカな…バカな……!」

「悪魔さん…!」

悪魔が苦しみ続ける中、娘は苦しみから解放され、すぐに気づいて悪魔の肩を抱いた。

「っ…どうしたんですか…!?」

「うる…さ…い…お前…なんか…あん…な…こ…と……」

悪魔は娘の体を突き飛ばそうとした。しかし苦しみ続けて力が出ず、娘は少しよろけただけだった。

「熱い…熱い……!!」

今度は次第に悪魔の体が白い霧で包まれ始め、娘は自分も霧に包まれていくのにも構わず悪魔を抱き締めた。

「悪魔さん!?どうしよう…!!」

悪魔は次第に、抱きしめる娘の視界から消えていった。


「熱い!!熱い…!!」

闇へ落ちる悪魔の体は炎に包まれ始めた。微かに見えるのは炎に照らされる自分の体だけ。

(助けたんじゃない…!!それに、油断させて、弄んで、それで…!)

いくら悔やんでも、娘は化けた自分だったとも知らずに感謝し、探し出して礼をするためだけに、自分に体を差し出し、少ない命を長らえていたのだ。まさか悪魔である自分の為に…

闇の中、悪魔は混乱と後悔に苛まれたまま、炎に包まれ消えていった。


「悪魔さん……」

娘は霧に包まれ消えていった悪魔がいたところを、呆然と見つめていた。

ところが、また次第に白い霧が集まり始め、人の姿を形作った。

「…!!」

霧はすぐに晴れた。

そこにいたのは、紛れもなく娘の恩人である男。年も取らず、あの時と同じ姿のまま娘のすぐそばに倒れている。

「あなたは…!!」

娘は男の体を揺すった。

「お願い、起きて下さい…!!」

しばらくすると男はゆっくりと目を開けた。

「…ここは……」

呆然とする男。

「えっと…ここは……」

娘は言い淀んだ。姿は恩人の男でも中身はあの悪魔なのか、それとも恩人そのものなのか。悪魔の屋敷だと教えても平気なものか迷ったのだ。しかし、

「お前は…?なぜ俺はこんなところに…??何も…思い出せない……名前すらも……俺は、誰だ……?」

「あなた……」

嘘をついている様子はまるで無い男をみて、娘は言った。

「ここは…知人のお屋敷なんです……。家主はもう居ないので…今日で、私もお暇をいただくことになっていて、その……私が今日訪ねたらあなたが外に……」

しどろもどろな娘の説明を気にすることなく、男は、

「そうか……」

と、ゆっくりと頷いた。

「あ…あなたとは、お会いしたことがあります…!!あなたは私の恩人なんです!私と弟を幼い頃に救ってくださった…」

「俺は悪いが何も覚えていないんだ……」

「それでも……」

娘は涙を流し、微笑んで言った。

「それでも、あなたを探していました…お礼が言いたかった…あなたに会いたかった…!やっと会えた…!!」

「お前…そうか……」

男は初めて会った頃よりも優しく、穏やかに微笑んだ。

「記憶が無いのなら、私はあなたの力になりたいです!私たちを救ってくださったように、あなたのお手伝いをさせてください!私はメロディ。メルと申します。」

「そうか…済まないなメル…」

娘は男を抱き起こそうとして、体にそっと触れた。なんだか、懐かしいようでそうでもないような、不思議な感じがした…

(悪魔さん……)


娘はその後、愛する弟とともにその男を助けながら過ごした。男は何も思い出せないままだったが、優しい娘のそばで末永く生きていこうと心から思った。
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