悪魔が気に入るお飾り人形!
「うわああ!ヤバ!!仮でも契約結んでおいて良かったな!」

彼の姿が見えた。
気付くと抱きかかえられていて、私の身体が薄い霧に包まれると、だんだん意識がハッキリしてきた。

「逃げ出そうとしたんじゃ…無いな。もう寂しくなったのか??」

彼が出したらしい霧に包まれていると、辛さが薄れていった。

「…どうして……」

「ああ、お前に異常が起きると分かるように仮契約しておいたからな。そのくらいは出来る。…大変だったぞ、『実家』に帰る、って言ったろ?魔力を蓄えてる最中に気付いた。すぐに来られて良かったけどな…」

「ごめ…なさ……」

声が震えて言葉が詰まった。
今度こそ怒られる…痛い目に合わされて、痛いまま人形にされるかもしれないと、本気で思った。
でも…

「分かったろ〜?人間に見つかると厄介だからさ、いつもはこの家、隠してあるんだよ。山の上より高い上空に。まあ、気付いて良かった良かった!」

「……。」

この人が嘘を付くとは思えない。
私は初めて、死ぬ恐怖から救われた安心感で力が抜けていった。

(私を逃さないためじゃなかった……それに、怒られなかった…心配してくれたんだ……)

「まだ人形じゃないから動きたいのは分かるけどな〜。今日一日の辛抱だ、暇潰すもん持ってきてやるから!…お前、そろそろなんか飯作って食えよ?俺の分、少し残してな!じゃ、また後で!」

彼は一気に言うと、手をヒラヒラさせて、また出かけていった。

(あの人、何が好きか分からないけど、食べるなら何か…)

私はゆっくり、二人分のご飯を作り始めた。

(私、ここに来てから泣いてばっかり…。泣いたのは、いつ以来かな…)

お母さんが死んじゃったとき、私は小さかった。でも、泣かなかったらしい。
大好きなお母さん…すごく悲しかったはずなのに…。なぜ覚えているかというと、やけ酒をしたお父さんが言った言葉を覚えているから……

『可愛くないガキだな!母親が死んだのに泣かねえのか!』

お父さんがいっそう私を叩くようになったのも、私が人形みたいだと周りに言われ始めたのもその頃だった。

(あの人は、私と違ってよく笑う人…。でもさっき、私が苦しそうにしてたら助けてくれた…。そのうち私を人形にするのに…。苦しい顔してたら、人形には出来ないのかな…?良く、わかんない……)

のんびりご飯を作っていて、そろそろ夕方らしい。窓から差し込む光が赤くなり始めた。
でも、私が先に食べてもいいのか分からず、作り終わったものを皿に盛り付けたまま彼を待った。

(人形になる時、痛くないといいな……)

そんなことを考えながら。
< 8 / 29 >

この作品をシェア

pagetop