魔族の王子の進む道
気掛かりと娘
一呼吸置き、魔力に意識を集中する。
すると、何時ものように世界の全体の姿が目の前に映った。
更に集中し、娘のいる小角族の集落の方に寄った。

実は辺境の小さな集落など、今まで気にしたことが無かった。
穏やかな者たちが集っていることを知っていた為、諍い(いさか)など起きるはずもないと、日に数度の要務であっても、確認は大まかな様子を見るだけ。
しかし正直なところ、今回ばかりは好奇心が勝った。

少しずつ、集落の細かい様子が見えてくる。
すると、見覚えの無い男が、まさにあの時の娘に近寄っているのが見えた。

「…誰だ…?…品の無い者だ……」

彼は怪訝な表情で様子を見つめた。
派手な宝飾に、巻かれた角を生やし、少々ニヤ付いた薄気味の悪い笑みを浮かべ、娘に何か言い寄っている。

………

「あなたは王子様のもとに行かれた娘さんではありませんか。なぜこちらに??」

「え?え〜と…」

娘は相変わらず呑気な様子で、男の質問に答えようとしている。娘のそばにいた不安そうな娘の母親が答えた。

「うちの娘は無事に戻ってこられたのです。王子様の御用は済みました。ですから王子様が帰してくださったんです。」

「それはそれは…。」

男は一層嫌な笑みを浮かべ、娘を見ながら言った。

「あの時は申し訳なかった……。この集落で王子様に見合う年頃の娘さんはお嬢さんだけ。明るいお嬢さんがお相手なら、王子様もお元気になられるだろうと…。しかし王子様は未だ、弟君が見つからず相当お冠のご様子。『何か』、なされませんでしたか?お嬢さん??」

「何か??王子様から?え〜と……」

娘の母親が相手の嫌な気配を悟ったのか、娘を自分の背に隠す。

「娘はもう関係ありません。放っておいてくださいませんか、貴族様…」

「いえいえ、わたくしは娘さんに大役をお願いしてしまった、償いとして今日は来たのです。良い医者を知っているのですよ。心の病も見てくださるお医者様です、お嬢さん。」

「心の病??」

「王子様の命で行かれたのですから、王子様の発言や行動によって、娘さんが何か心に小さな傷を抱えてしまうことはあります。それをお医者様は診てくれるんですよ。お母さん、わたくしに任せてはくださいませんか??」

「娘の…心の…傷……」

………
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