魔族の王子の進む道
「全く…どこの愚か者だ?足を踏み入れるなと、立て札に書いてあったはずの森に入ったのは……」

魔族の城の奥に、大きなソファ以外置かれていない殺風景な部屋がある。
ここは歴代の王が要務として、魔力で魔界を見渡すための部屋で、そこに王子である彼の姿はあった。

並の者の魔力では、この部屋でも、遠目で何かしらの姿しか見えない。しかし彼の魔力は数段上。見ようと思えば魔界中を細かに見渡せるほど。

彼の魔力で見えたものは、先ほど追い出したはずの娘が、森の中で傷だらけになり倒れゆく姿だった。

「…お前たち、森に入った愚か者がいる。早急に森から摘み出せ。」

「はっ…!」


城の兵達が森に辿り着いた時には、すでに近寄る者の体力を奪う、魔の胞子が充満していた。

娘の方が体力は上で、恐らく今頃は森の奥。
いくら屈強な兵士達でも、自らの身を守るための魔力が、この不思議な森の中でどれほど続くかもわからない。

兵士長が急ぎ城に戻り、王子に、床に頭がつくほどに下げて言った。

「王子様……迷いの森の胞子が異常に飛散し、私どもの魔力では、とても娘の捜索など…。…皆倒れてしまっては……」

魔力ばかり高い兵士達が裏目に出てしまったらしい。

城には高魔族の者しかいない。
体力や力が高い、低魔族と呼ばれる者たちは下に見られ、城に出入りすることなど滅多に無かったほどだった。

「馬鹿な…!…もう良い、私が直々に行く!!あの者たちは下がらせろ!!」

「王子様!!貴方様に何かあっては……」

「我が魔力が、信用出来ぬとでも…?」

「い、いえ……」

プライドが高いばかりに、王子である自分が出来ないと言えるはずもなく、彼は自ら娘の救出に行く羽目になってしまった。

「誰にも言うな!!誰かに漏らせばただでは済まさん…!」

謁見の間に居た数人の者達が呆気に取られる中、彼は直ぐさま城の兵達と同じような姿になり、大翼を広げ、城を飛び立った。


自らも初めて踏み入る迷いの森。
幼い頃から、入れば魔力尽きると言い聞かされてきた。現に足を踏み入れて無事に戻ってきた者などいない。

「…あんな小娘の為に…。」

とはいえ、自分は次期王。命に関わるほどの差別や区別など許されるはずも無い。
ましてプライドの高い彼は、誰にも出来ないと言われ、そうかと自分も安全圏に籠もることなど出来るはずも無かった。
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