双子の兄の身代わりになった妹の人生【短編】
 今回はその一番遠く離れたルビー王国へと留学することになっている。
 馬車だけではたどり着くことができない国。道も通っていない山で陸路は阻まれているため、途中海路を使わざるを得ない。
 まぁつまり、よほど商魂たくましい商人でもないかぎりほぼ行かない場所。国同士の交流なんてしたって仕方がないというレベル。
 つまり、サファイラ公爵家の跡取りであるレイスと面識のある人間なんていない。面識どころか、容姿に関しての噂を聞いたことのある人間すらいないだろう。
「はー、本当、エミリオの変装はいつ見てもすごいわねぇ……」
 思わず声が上がる。
 目の前にいるエミリオは、学園で男子生徒の多くを魅了し公爵家のレイス様をも篭絡した美少女の姿はどこにもない。
「そういう方面でのプロですからね」
 そう言うエミリオは、どこから見ても美青年。
 学園の誰が見てもエミリーだったとは気が付かないだろう。
 身長も20センチは違う。大きな胸もなくなり、何しろタレ目気味だった瞳は切れ長で涼し気だ。
「プロっていったって、身長どこやったのよ!私だって、ずっとお兄様のふりするために、シークレットシューズ履いて過ごしてたのよ?それでも、見えてる部分のかかと4センチと、靴の中の見えない部分で8センチと、12センチ誤魔化すのがせいぜいだったわ」
 兄の亡くなった14歳のころは私と身長は変わらなかった。160センチくらいだ。同級生たちも同じようなもの。
 だけれど、女の私の成長期はほとんど終わっていたけれど、男の子たちの成長期はそれからで。17歳になる今まで、少しずつ靴の高さを変えて誤魔化してきた。男子の中では小柄。だったけれど、小柄な男子もそれなりにいたので不自然なほどじゃなかった。
「大変だったんですよ。スカートの中ではつねにこんな姿勢で……」
 と、エミリオが膝を曲げて見せる。
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