あなたのためには泣きません

5センチの距離

梅雨入り前の5月
オフィス街の街路樹さえまぶしい新芽を出していた。

私、滝沢那智(たきざわ なち)は先週買ったばかりの新しいパンプスを履いて、新緑のオフィス街を会社へ向かって歩いている。

「いい?那智 靴はね、いいものを履きなさい。素敵な靴は、あなたを素敵なところへ連れて行ってくれるわ」

とは、靴好きな母の教えだ。

実家を出て、一人暮らしをしている私ではそうそう贅沢はできないけれど
それでも少しずつ貯めたお給料で新しい靴を買うのは今や私の楽しみでもある。

今日履いているのはフェラガモのヴァラリボンパンプス
営業職の私は歩くことが多いので、太めのヒールは5センチと低めだけれど
いつもはフラットシューズを履いている私にとって、
この5センチは特別な日を意味している。

それは、、、、
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