あなたのためには泣きません
「いいの。会えるだけで幸せだもん」

「そんなこと言って。誰かにとられても知らないからね」

「えー、それはやだなぁ」

といいつつ、エントランスにIDカードをかざす。

うきうきと言っていいような気分のまま、エレベータの前で涼香ちゃんと別れる。

「とにかく、いつまでも子どもみたいなこと言ってないで、がんばりなよ」
「・・・・はい」

子どもというフレーズに傷つきながらも、素直に返事をする。

同じ年ではあるものの、既に取引先の若社長と来年結婚を控えている涼香ちゃんからすれば、会えるだけで幸せなんて言っている私の恋は子どもっぽいと言われても仕方ないか。

いつもの朝、いつもの風景

こんな冗談めいた楽しい会話が、まさか現実になるなんて
この時の私はこれぽっちも思ってなかった。

思えば、なんて無防備だったんだろう。
山中さんが素敵なことを私だけが知っているつもりになっていたなんて。
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