浮気 × 浮気


と、そんな時。
不意に腕を掴まれたかと思えば、半ば強引に体の向きをクルリと180度変えられる。

そうすればぼやけた視界の中に、必死の表情をした木嶋さんが映りこんだ。

そして私の顔を見るやいなや、私を強引に抱きしめた。


「どうしたんですか!何があったんですか!」


そう耳元で発せられる声は、あまりにも余裕がなさそうだった。


「なんで…また泣いてるんですか……っ」


言葉を発する度に、木嶋さんの腕の力は強くなる。


「ごめんなさい。俺が守るって言ったばかりなのに。もっと早くに明里さんの所へ行けばよかった」


守るだなんて大袈裟だよ、と笑って見せようと思ったけれど、今はどうしても笑えるような余裕がなかった。


「雪だった」

「……え?」

「陸と浮気してたの雪だった。さっき、キスしてたところ見ちゃったの」


そう言って笑おうと必死に口角をあげようとするけれど、案の定、上手くは笑えなかった。


それどころか、涙が溢れてきて前を向いていられなくなった。

< 126 / 236 >

この作品をシェア

pagetop