パラサイト -Bring-
こうしてなぜか始まった女の対決は、予想などとっくに分かりきってると思いながら望んでいた。だが、一筋縄でいかないと分かったのは三日目の朝だった。
俺はいつも通り万由子に挨拶をした。なんてことない、気持ちのいい朝だった。
「おはよう」
「…お、おはよう」
様子が違うのは一目瞭然だった。ただ、それは体調が悪いとかそういう類いではなく、どこかよそよそしい態度だった。万由子自身に何かあったか、それとも万由子を揺さぶるようなことが近しい者であったか。どちらにせよ、嫌なニオイがすることに変わりないような気がした。
こういう時、どう接するのが正しいのだろう。普段通り話すのも気が引けてしまう。でも話さなくなるのも向こうにとっては、俺が余計な何かを察したのではないかと、余計に考えを巡らせる種になりかねないのではないかと思った。だからと言って、直接聞くのもそれはそれで難しい部分があると思った。
当時の俺には難問だった。だが、解決のヒントは思ったよりすぐに見つかった。
遥が教室に入ってきた。遥はいつも通りの様子らしいが、一つだけ違ったのは、俺に挨拶をしたこと。
「おはよ、紅馬クン」
「ああ」
「わ、すごい仏頂面。老けちゃうよ」
「(なんとでも言え)」
読んで字の如く、余計なお世話だ。
遥を見た途端、一昨日と昨日にはなかった寒気が体を襲った。万由子の反応と寒気は関係している。何と関係している?目の前にいる遥だ。
今すぐにでも話を聞き出したいくらいだったが、思うツボのような気がしたから聞かなかった。いや、怖かったのもあった。もし何も知らないと言われて、万由子自身が関わるのをやめたがっていたら?それも無きにしも非ずだった。仮にそうだとしたら…という予想が頭の中から抜けなかったのも事実。
「紅馬クン、今日は静かだネ?」
「さあな」
「私が遊んであげるよ!」
「断る」
「そんなこと言わずに、ほら?」
「やめろ」
いつか見た景色と同じだ。遥は胸を俺の腕に押し付けながら、がっちりと掴んでいる。本来、こういうポーズは恋人同士でやるものだと思ったが、いちいち反応できるほど元気は出なかった。
好きでも嫌いでもない遥のそれは、邪魔にしかならなかった。腕が重かった。吐き気は失せても、一日の元気も失ったようだった。まさか、スキンシップだけでこんなに疲れるとは思わなかった。
今までもスキンシップはあったが、今日のそれは意味合いが違っていた。
幸いなことに、一限の予鈴が鳴ったおかげで気持ちを切り替えることができた。だが、とどめの一撃が俺に降り注いだ。
「お昼休み、中庭でね❤︎」
この一言で安堵の気持ちが崩れた。
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