わかりました、結婚しましょう!(原題:橘部長を観察したい!)

09. 橘部長と分かち合いたいのです

 私はてっきり、噂の女優さんと浮気していて、私を捨ててそちらに乗り換えたいから結婚式を延期したいのかと思っていた。延期して、その間に私と離婚して、花嫁だけを取り換えて結婚式するのかと。きっと杉岡さんも、同じように想像して怒ったのだと思う。でも、そうじゃないみたい……。

 宮燈さんが息を飲んだまま動かないから「あのー、呼吸はしてくださいね?」と言っておいた。

 綺麗な眉を下げて私を見ている。宮燈さんが泣きそうに見えるのは、いつもは表情のない瞳が潤んでるからだと思う。

 ……だめだ、顔がいい……。

 芸術家が、持てる限りの技術でもって作り上げたかのような整った造形。青い蓮のような瞳、花弁のような唇。お手入れしてるの見たことないけど、きめ細やかなお肌。
 美人過ぎない?
 私の好みドストライクだからキラキラして見えるのかなー?
 愁う美人は尚更美しい。宮燈さんは冷たい手で、私の頬を撫でている。何度も口を開こうとしては躊躇ってるのを見て、私は(ほだ)されてしまった……。

「そんなに言いたくないなら、言わなくていいですよ。コーヒーどうぞ。ここのダッチコーヒーは二十四時間かけて抽出してあるそうです」

 私は自分の両手で宮燈さんの手を包んでそう言った。宮燈さんは、ほっとしたような、言うタイミングを失って困ってるような複雑な表情を見せた。私は(あ、宮燈さんもこんな顔出来るんだ)とちょっと驚いた。
< 139 / 188 >

この作品をシェア

pagetop