わかりました、結婚しましょう!(原題:橘部長を観察したい!)

「あの、少しお話してもよろしいですか?」
「用件は?」

 隣の男性社員が席を空けてくれたので、俺の返事を聞く前に彼女は御礼を言ってそこに座った。所作も可憐だ。あの乳臭い小娘とは全然違った大人の魅力。見た記憶があるなと名札に視線をやると所属先が総務課だったので、受付にいる女性だと思い出した。

「先日、杉岡さんにアポイントをとって来社された清川さんという方についてなんですが……」

 俺は箸を置いて話を聞くことにした。あの小娘のせいで俺は妻の弁当が食えない。本当に忌々しい。彼女は俺にしか聞こえない位の小さな声で言った。

「あの方のお名前は桜さんですよね? エントランスで橘部長が呼んでいたのは、清川さんの名前ですか?」

 訪問者は受付にフルネームで記録されるから、彼女は気づいたんだろう。誤魔化しようがなかったので、俺ははっきり返事せずに頷くことにした。おそらく彼女は噂を広げるタイプじゃないだろう。……美人だからとひいき目で見ているわけではない。
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