わかりました、結婚しましょう!(原題:橘部長を観察したい!)

06. 橘部長がついてきて困る

 うちに連れ込みましたとか、ふつー親に言う?!

 顔が熱い。隣の橘部長は平然としてたけど、私は多分、真っ赤な顔になってたと思う。
 橘社長が「珍しい」と呟き、私に向かって言った。

「息子は見ての通り偏屈だが、大丈夫かな?」
「あ、はい……。こちらこそ……」

 私の方こそ大丈夫なのかな、と心配になった。社会で何の実績もあげてない私なんかが、橘部長と結婚して大丈夫なのかな。
 特別美人でもなく、銀行頭取の娘とか代議士の娘とかの付加価値もない、潰れかけた町工場の娘なんだけど。
 ちらりと横の橘部長を見上げたけど、無表情のまま前を向いている。

 ああ、顔がいいなあ~! ドストライクだなあ~! 眼福眼福。
 昨日みたいに笑ってくれないかなと思ったから、袖を引っ張ってみた。気づいた橘部長が私に視線を寄越す。私がへらっと笑いかけると、橘部長が少し口を歪めた。
 うーん、多分笑おうとしてるんだろうけど、全然笑えてないわ。


 私と橘部長との結婚は、しばらくは社内でもごく一部の関係者だけに留めること等を父子が話していた。私にはよくわからないが、社内に派閥があるらしい。社長秘書の森谷さんが「申し訳ありませんが、そろそろ」と声をかけてきたので、橘社長が私に向かってにっこりと笑って言った。

「息子を、よろしくお願いします」
「はい。ありがとうございます。こちらこそ、よろしくお願いいたします」

 人を魅了する笑顔だったから、社を背負って立つ人って人間の出来が違うんだなって妙に感心していた。
 隣に立っている橘部長は社長とは真逆で、やっぱり無表情だった。
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