イケメン年下男子との甘々同居生活♪
 朝の目覚めはいつも気だるくて、憂鬱なものだという認識があった。
 だけど、最近はそうでもないかもしれない、ゆっくりと眠れるベッドや新品のお布団も要因の一つかもしれないが、肉体的な疲れよりも精神的な疲れが比重を占めていたりする場合もある。
 
 今日だって、昨日はうっかりアラームをセットしわすれてしまっていたが……いや、そもそも私の部屋ではないのでアラームは無いのだ。
 しかし、人間というのはよくできていてなんとなく、その時間になると何もなくとも起きれたりした。

(う――ん……起きなきゃ)

 自分の胸の上にのっている華奢な腕から離れようとしたとき、隣で動く気配がする。
 私はなぜか目を閉じたまま動かなくなり、じっと待つことにした。
 すると志賀くんは、私の寝顔を数十秒ながめるとそっとオデコに軽くキスをするとベッドから出て朝ご飯をつくりに向かってしまう。

「う、動けない……」

 こっそりと部屋に戻ってごわついた髪などを整えようと思っていたが、どうやらそうもいかない。
 急に恥ずかしくなり、とりあえずベッドの下に落ちている自分の下着をごそごそと探してみるも見つからなかった。

「まさか」

 嫌な予感がしてきた、もしかすると浴室から直行したため未だに着替えは脱衣所にある可能性が高い。
 つまり、私は裸のまま部屋を出て脱衣所にいかなければならなかった。

「む、無理にきまっているでしょ!」

 枕に顔を埋めて叫んでみると、彼の香りが目の前に広がりスッと鼻にいれてしまう。

「何やってんのよ、そうじゃなくて今はどうにかしなければ……」

 せめて何か隠せるものでもあれば、そう思い上半身を起こして部屋の中を見渡すと志賀くんが昨日帰ってから脱いだ私服が床に散らばっており、足音をたてないようにベッドから出て服を借りることにした。
 そして、少しだけドアを開けてから深呼吸を一度して部屋を出ると、私の気配に気が付き彼が振り向いてくる。

「あ、神薙さんおはよ……う」

 きりっとした目筋がぱちくりと動いて、視線が私の下から上に移っていく。

「お、おはよう。ごめんなさい、服借りちゃった……」

 ダボっとした白地のシャツに、ズボンは勝手に下がってくるので穿けずにいたが、なんとか大切な部分は隠せている。
 しかし、恥ずかしくないわけがない、私はさっさと着替えを取りに行きたいのにキョロっとした瞳に見つめられるとなぜか動けないでいた。

「な、なにか?」

 あまりにもじろじろ見られるので、服を借りたことに怒っているのかな? って思ったが、次の一言で一気に体の力が抜けていく。

「な、なんだかエッチな姿ですね」

 そういってポッと少し頬を染める志賀くん、いや! なにその反応、今までこれより凄いことしているのに、唐突に初心な感じを出されると私が困ってしまう。
 
「え? そ、そう? ありがとう……」

 あぁ! なんで私まで変なこと言っているのよ。ダメ、全然ダメ、頭で考えていることを心が受け入れてくれない。
 なんでお礼言っているのよ。そりゃ、魅力的じゃないって言われるよりはいいかもしれないけれど、そうじゃないでしょ。
 まだ見つめてくる彼の視線から逃れるように、ゆっくりと脱衣所に向かって下着類とまわしっぱなしの洗濯物を取り出して自室へと戻っていく。

 精神統一をしながら、身だしなみを整えて洗濯を干していくも、シワになっておりもう一度洗濯しなおす必要がある。
 そんなことをしているうちに、ドアがノックされご飯の時間を報せてくれた。

「いただきます」

「いただきます」

 いつもより、数分遅れての朝食。 だけど、今は会社まで距離が近くなったのでそんなに焦る必要もない。
 ゆっくりと美味しいご飯を食べて、二人で協力して片付けを終えると仕事に向かっていく。

「それじゃぁ行ってきます」

「あ! はい、行ってらっしゃい」

 わざわざ玄関まで見送りにきてくれ、私は軽く手を振って家を出た。 彼も笑顔で手を振り返してくれたが、ちょっとだけ寂しそうな瞳をするのは反則だと思う。
 
 そして、まだ見慣れない景色を楽しみつつ向かっていくと、ふと思うことがあった。
 行ってきます? ん? 地下鉄の入り口付近で自分の右手を見て少し考えてしまう。
 今朝のやり取りって、なんだか……お互いの距離が近いというか、ふ、ふふふふふ、夫婦みたいじゃない?

 
(何をバカなことを考えているのよ)
 
 そうだ、何を考えているのだ。
 これから仕事だっていうのに、上手に切り替えられていない、きっとまだあのコンビニに到着していないからだ。
 私は無理やり意識を切り替えると、地下鉄への階段を下っていく。
 だけど私の体にはまだ、ハッキリと彼の手の温もりや重ねた肌の感触が残っている。
 
 変に意識をしてしまうと、微妙に変な歩き方になってしまう。

「バカみたい」

 年下の相手に何をそんなに戸惑う必要があるのか、電車に乗りこむとイヤホンを耳にセットしてお気に入りの曲を聴き始める。
 
(あ、これ志賀くんも好きって言ってくれてたよね)

 画面に映し出された曲名を親指でなぞると、彼のあの時の横顔が浮かび上がってきた。
 綺麗な顔に頬に痛んでいないクルっとした癖っ毛の感触を思い出してしまう。

「うへぇ、本当に私どうしたのよ……」

 小声で周囲に聞こえない程度に声を殺して呟く、こんなことでは一日持たないどうにかして早くあのコンビニに行って気持ちを切り替えなければならない。
 
 
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