Grand Duo * グラン・デュオ ―シューベルトは初恋花嫁を諦めない―
義父と母親にネメの存在を認めさせたい。けれどもいまの状況では、「わたしは愛人なのでどうぞご自由に」と逆に突き放されかねない気がする。身体だけ明け渡してくれても、俺は満足できないことを思い知ってしまった。永遠に繋ぎとめるためにも結婚という枷をつけなくては……けれど無理強いはもう、したくない。
「俺は、ネメに無理をさせたくなかったんだ……結局、我慢できなかったけど」
「そんなに心配しなくても……アキフミがひどいことしないのは、もうわかったから」
「こんなところで煽るな。欲しくなる」
屋敷から道なりにつづく坂道をとことこと歩くネメの手をぎゅっと握れば、彼女の足がぴたりと止まる。そのまま顔を近づければ、反射的に瞳をとじて、俺の唇を受け入れてくれる。
「――アキ、フミ」
「ネメ」
「いけません……仕事中です」
車が一台ぎりぎり通れるちいさな門をひらけば、ここから先は屋敷の人間以外も往来が可能な別荘地になる。どこにひとの目があるかわからないとネメは俺を窘めて、一棟目のログハウス風のコテージの鍵を片手に、木でできた階段をのぼっていく。