Grand Duo * グラン・デュオ ―シューベルトは初恋花嫁を諦めない―

 紡は両親から生前に夫が遺言書を書いて隠したことを告げられて、今回の記念集会にひとりでやって来た。喜一と懇意にしていた紡の両親は、遺言書がない場合は唯一の相続人となるであろう喜一の若い後妻と紡が結婚すればいいのではないかととんでもないことを提案して、紡をその気にさせてしまったらしい……この辺りは本気で冗談であって欲しいけど。
 とはいえ、わたしに逢いたい気持ちも少なからずあったのだろう。アキフミが番犬のように待ち受けているとは思いもよらずに。

「喜一さんのお兄さんも若くして亡くなっているし、隠し子の存在がない限りはいまのところ相続人に該当しているのはネメちゃんただひとり。だから遺言書がない場合、相続放棄をしない限りは土地もピアノもすべて貴女のものになるっていうのは、生前に彼が話したんじゃないかな……まぁ、紫葉リゾートが前金で土地とピアノを押さえているのは事実だけど、名義はまだ喜一さんのものだろ? 正式に相続をしない限りは土地の売買もできないし、名義変更の手続きも進められない。相続税もとんでもない額になるだろうし、借金が残されていた場合はそれらも負の遺産として引き継ぐことになるけど……その辺は遺言書の内容次第って考えればいいと思うよ」
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