Grand Duo * グラン・デュオ ―シューベルトは初恋花嫁を諦めない―

唯一の愛を乞うシューベルト《3》




 ほろ酔い気分でロビーのグランドピアノを弾いた詩の演奏は大胆で、俺が想像していたよりも強気なものだった。大和撫子な見た目に反して芯が強いのか、ただ単に矜持が高いだけなのかはわからないが、周囲の利用客をも驚かせるものだったことは否めない。

 ――リスト、ラ・カンパネルラ。

 アルコールが入っていてこの演奏ができるのなら、素面だったらいったいどんな風に弾くのだろうと興味が湧く。その一方で「違う」と思う俺もいる。

 ――ネメだったら、こんな風に叩きつけるようには弾かない。もっと感情豊かに、抑揚をつけて、指を躍らせていたはずだ。

 拍手を受けながらゆっくりと椅子をおりた詩は、誇らしげに俺の方へ向いて一礼した。
 ここにいるのがネメなら、人前であることを憚らずに駆け寄って、抱きしめてキスをしていただろう。
 けれども俺は無表情だった。
 詩はその場から動かない俺を見て、困った顔をしている。
< 157 / 259 >

この作品をシェア

pagetop