Grand Duo * グラン・デュオ ―シューベルトは初恋花嫁を諦めない―

 頼もしい彼女の言葉に、俺は緊張の糸が切れたらしい。
 ほろり、と目の奥から熱い水滴が零れ落ちる。
 慌てて腕で目を拭えば、立花がふいと顔をそむけて小声で呟く。

「明日、社長だけ一足先に軽井沢へお戻りください。こちらでの仕事を片しましたら、後日私も応援に参りますわ」
「いいのか」
「これ以上、会社内を混乱させておくわけにはいきません。社長の手が必要なところはリモートで作業できるようにしておきます。あとは、お任せください」
< 163 / 259 >

この作品をシェア

pagetop