Grand Duo * グラン・デュオ ―シューベルトは初恋花嫁を諦めない―

「なにそれ」
「現に、紫葉グループ全体が俺の花嫁探しでざわついている。俺がこの騒ぎを落ち着かせるためにも花嫁を迎えて周りの人間を納得させる必要があるのはわかるだろ? ……だからこうして毎日ネメを口説いてる」
「……わたしはもう、堕ちてるよ」

 納得させると言っているけれど、アキフミはわたしを花嫁に迎えて周りの人間を黙らせるつもりだ。自分が社長夫人に相応しいのか、という不安はいまもあるけれど、わたしがバツイチではないことを知ったアキフミはこのままわたしとの結婚を本格的に加速させたいのだろう。
 法的な婚姻の場合、死別後の婚姻には基本的に百日の制限がある。夫が亡くなって、もう三ヶ月だ。若いのだからそろそろ新しいひとを探してもいいじゃないと、アキフミに無理矢理身体を求められているのではないかと心配してくれている家政婦さんにこっそり囁かれたこともある。それは誤解ですと、顔を真っ赤にしながら言い返したけど……

「まだだ。もっともっと俺に堕ちろ」
「アキフミ……?」

 ずん、とピアノペダルを踏みつけて、彼は演奏を中断する。
 椅子から立ち上がり、わたしが座っている寝台まで迫ると、両腕でわたしの身体を抱きしめる。
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