Grand Duo * グラン・デュオ ―シューベルトは初恋花嫁を諦めない―

 アキフミと一緒に見た景色は、新鮮で、清らかで、自分の心を弾ませてくれる。

「……なんだか信じられない。こんな風に、大人になったアキフミとデートしているなんて」
「俺も」

 教室やライブハウスでピアノを弾いたことはあったけれど、それ以外の場所でこんな風に、ふつうの恋人同士がするようなデートなど、今までしたことがなかった。
 雲場池のほとりにあるレストランの木陰のテラス席に座って、緑に囲まれた場所から外の景色を堪能しているわたしを、アキフミがクリームたっぷりのウインナコーヒー片手に楽しそうに見つめている。

「――月曜日は“星月夜のまほろば”でふたりだけの宝探しだな」
「え? 立花さんも来るんじゃなかったの?」

 わたしが驚いた顔を見せれば、彼は声のトーンを落として、ぽつりと呟く。

「紫葉の、東京本社から呼び出しが来た……両親がついにしびれを切らしたらしい」
「そうなの?」
「数日は粘るつもりだ、って言っていたけど……下手するとこっちに乗り込んでくるかもしれないな」

 アキフミの両親が自分に逢いたがっている――わたしが彼の花嫁に相応しいか見定めるため?

「それか、お前を東京に連れて来いと、命令してくるか……」
「どっちにしろ、顔を見せないといけないってことよね」
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