Grand Duo * グラン・デュオ ―シューベルトは初恋花嫁を諦めない―
ようやくふたりの想いが現実になろうとしていることを考えると、感慨深いものがある。
「時間は有限だからな」
コテージを後にしたアキフミは、屋敷に戻って開口一番「東京に行くから切符の手配をしろ」と添田に命じた。三号棟のリビングに飾られていたピアノの油彩画の額縁の裏から発見された遺言書を見せれば、筆跡から亡き主人のものだと理解した添田は、アキフミの両親からも結婚の許可を得るためわたしたちの東京行きを承諾、一足先に戻っていたアキフミの秘書である立花とともにスケジュールの調整に奔走した。
立花はアキフミの両親に事情を説明してくれていた。義父と母親は実際にふたりが結婚の許可をもらいに訪ねてくることを意外に思ったらしい。それだけ彼が本気だと理解したのか、逢うための時間をわざわざ確保してくれたとの報告が来た。
今夜七時に都内ホテルのレストラン。わたしがピアニストのときに何度か演奏で訪れたことのある場所だ。向こうにもわたしの正体はすっかり露見しているということだろう。
「両親はきっと、お前を気に入るさ」
「そうだといいんだけど……」