彼女

前日

 十二月二十三日、金曜日。

 終業式後のホームルームが終わると、明日から冬休みということもあり、クラスメイトたちも少し浮き足立っている様子が伺える。

 しかも、明日はクリスマス・イブ。

 受験勉強の山場を迎えているのにも関わらず、恋人のいる奴らは、キャッキャウフフなクリスマスを過ごすのだろう。

 僕はとりあえず今日から実家へと帰るつもりである。父親にもそのように連絡している。

 クラスメイトたちの数人と、また来年や、良いお年をなどの年末の在り来りな挨拶を交わすと僕は教室を出て、そのまま靴箱へと向かった。靴箱で靴に履き替えて校舎をでると、外気の冷たい風にさらされぶるっと身震いをしてしまう。

 マフラーに顔の半分位を埋め、コートのポケットに手を入れる。ホットのコーヒーでも買っとけば良かったなと思った。

 僕は少し歩く速度を早め、バス停へ向かった。

 バス停には同学年の参考書を読んでいる生徒や、周りの目を気にせず寄り添うカップル、友達同士で楽しくおしゃべりをしている生徒などがいる中、僕はイヤフォンで音楽を聴きながら、ぼやっとその光景を眺めていた。

 僕のいる反対側のバス停に、栗原と山川さんが楽しそうにおしゃべりをしているのが見える。こちらに気付いていない様子であり、僕もわざわざ知らせることもないだろうと視線をずらすと、栗原たちから少し離れたところに掛川の姿を見つけた。

 掛川もこちらに気付いたようでありお互いに視線があうと、掛川の口が少し動いたように見えたが、僕は何故か掛川からすっと視線を逸らしてしまった。

 すると僕のいるバス停へバスが停車し、僕は掛川の方へ視線を戻すことなくバスに乗った。

 部屋に戻ると実家へと帰るために着替えを行い、荷物を入れたバックを持って出掛けようとした時に、携帯にメッセージの着信を知らせる着信音が鳴った。

 父親からで帰ってくるのは何時頃になるのかという内容のメッセージだった。正直、掛川からのメッセージかと期待していた自分が情けなくなった。気を取り直し、いまからアパートを出ると返信した。

 僕は駅前のハンバーガーショップで遅めの昼食を取りながら、外をぼんやりと眺めている。

 駅前には大きなクリスマスツリーが飾られており、その前で、親子連れやカップルたちが、それぞれ写真を撮ったりしているのがみえる。

 みんな、幸せそうに笑っている。

 ハンバーガーショップを出ると、大きなクリスマスツリーの側に近寄り、ツリーの一番上に飾られている星を見上げると、星が陽の光に反射し煌めいていた。

 時間はたっぷりとあることから、僕は特急ではなく快速電車に乗った。実際、快速の方が料金的にも全然安いということもあるが、早く帰っても父親は仕事で遅くなるみたいだし、実家にある僕の部屋の荷物はアパートにほとんど持って行っているから、ほとんど何もない状態と言うこともあり、寝るか、携帯を触るくらいしかすることがない。まぁ、何冊か本は持ってきているんだけど、それも、あっという間に読み終わってしまうだろう。

 だからといって、やっぱり特急に比べ快速は時間が掛かる。各駅停車の普通に比べれば、それでも早いんだろうけど。

 僕はさすがに暇になり、栗原たちと作っているグループチャットにメッセージを入れた。

 栗原も山川さんも暇していたらしく、しばらくの間、三人でチャットを楽しんだ。

 気付けばこの二人とはなんだかんだで、とても仲良くなったと思う。

 よく聞かれる、男女間の友情は成り立つかという質問があるが、この二人で対してはあると自信を持って答えれる。それだけ、お互いに信頼したい、いろいろと相談したりしたり、馬鹿話しをしあった仲だった。

 しばらくすると、僕が降りる駅に到着すると放送がなった。

 僕は栗原たちにその旨を伝えチャットを終了し降りる準備を始めると、ゆっくりと電車がスピードを落としながら目的のホームへと到着した。

 僕は立ち上がり電車から降りると、片手を上げ大きく背伸びをし改札へ向かい歩きだした。
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