夢と現実

日焼け

 キャッキャウフフ

 飛び交う黄色い声、魅惑の真夏のエンジェルたち、照りつける太陽、眩しく煌めくプールの水面。

 こう言えば僕たちが夏休みにプールで青春を謳歌しているように聞こえるだろうけど、実際はボランティア活動の一環として、小学生を近所の市民プールへ引率しているボランティアグループの一員として参加しているだけなのだ。

 低学年を任された僕と榊原と清水の三人組。まぁ、他にも子供会の大人たちも数人いる。

 プールサイドに子供たちを並べさせ、準備運動を始めるが、普段と違うプールを目の前にして、天高く舞い上がる子供たちが、そう簡単に言うことを聞くわけでもなく、あっちキョロキョロ、こっちキョロキョロしながら、全く準備運動に身が入っていない。

 僕らはなんとかかんとか子供たちに準備運動させ、子供用プールへと誘導した。すると子供たちは蜘蛛の子を散らしたように、それぞれが仲の良いもの同士でばらばらになった。

 僕らも一緒にいた大人たちと手分けして、子供たちについて見守った。

「いやぁ、子供たちの体力は底無しだな」

 今日最後の休憩時間に、へとへとになった榊原と清水が僕の横へやって来た。部活をしている僕ら二人でもへとへとになっているが、清水やその他の大人たちは、僕らよりも疲れているのが分かる。

 そんな清水が、着ていたラッシュガードを脱いだ。華奢なその右肩に、五cm程の傷跡があるのを見つけた。僕がその傷跡を見ていることに気付いた清水が、昔、ジャングルジムのてっぺんから落ちてできた傷だと教えてくれた。

「痛かっただろ」

 榊原も清水の傷跡を確認すると、自分が怪我したかのように痛そうな顔をしている。

「いや、落ちた時には気を失っていて、気付いたら病院で手当も終わってたんだ」

「ジャングルジムから落ちるなんて、結構、やんちゃな遊びをしてたんだな」

「そんなことはなかったんだけど、なんで落ちたのかの記憶が曖昧なんだ」

 それから小学生の頃にやった遊びや武勇伝を話しているうちに、休憩時間が終わり、子供たちが一斉にプールへ向かうのを慌てて追っていった。



 ボランティア活動から帰宅して風呂に入ると、今日一日で日焼けした部分がひりひりして、ろくに体を洗えなかった。

「夏休みの間に、この日焼けムラをなくそう」

 普段、部活では夏でも長袖のコンプレッションインナーを着ているせいで、手首から先と首から上だけ日焼けしており、隠れている部分が白かったが今日のプールで少しは同じ色に近付いている。手取り早く日サロに通うかなんて考えてしまったが、まずないなと自己完結した。

 風呂から上がり夕食を済ませ自室へと戻った僕は、部活以上にきつかったなぁと思いベッドに寝転んだ。

 体が日焼けのせいで火照っているのがわかる。エアコンの風量をパワフルにして、扇風機も強でまわし、自分の方へ向けるが、体の中からの熱には余り効き目がなく、すぐにいつもどおりにエアコンの設定を戻した。

 その後、榊原と清水とグループチャットで会話を行っていたが、眠気が強くなってきたこともあり、二人におやすみと伝え離脱した。



「日焼けしたね」

 アイが僕を見て開口一番にそう言った。

 僕は、アイにボランティア活動の一環でプールに行ったことを話し、日焼けで真っ赤になっている肩を見せた。

「痛そう…」

 自分が痛みを感じているような表情をしたアイは、それでも遠慮なく、僕の真っ赤になった肩を、つんつんと人差し指で突いてくる。

「痛っ、痛っ」

「ふふふ」

 痛がる僕の様子を面白がって、アイが笑っている。アイはSの素質があるなと心からそう思った。

「私は、日焼けすることがないから、少し羨ましいわ」

 アイはそう言うと、くるりと僕に背を向け空を眺めた。

「女の子だから、日焼けしない方がいいんじゃない?とても綺麗な肌をしてるし」

 僕は別に変な意味からではなく、本当に心に思っていた事を伝えた。

 アイは僕の方へ向き直し、少し照れた様子で、ありがとうと小さな声でそう言うと、僕の横に来て手を握り走りだした。
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