スノーホワイトは年下御曹司と恋に落ちない

『毒りんごで死なない白雪姫』
『お客様相談室の魔女』

 陽芽子はあまり関わりのない社員に、陰でそう呼ばれている。

 コールセンター業務の実態を知らない社員にとっての『お客様相談室』は『クレームを処理する部署』で、そこに電話を掛けてくる人は『厄介な人』ばかりだと認識しているからだろう。

 確かに、激昂した人からの電話を受けることはある。しかしコールセンター業務に携わって以来毎日似た案件を繰り返していれば、怒った人の相手には嫌でもそのうち慣れてくる。それに文句を言う相手にも『言い分』が存在するので、根気よく耳を傾けていれば問題解決の糸口は必ず見えてくる。だが大抵は最初の時点で嫌がられ、厄介だと思われてしまう。

 そしてそんな厄介な人たちの相手をしても平然としている、お客様相談室の室長。クレーム(毒りんご)で死なない白木 陽芽子(白雪姫)。お客様相談室の、魔女。

 可愛らしくない名前そのものは陽芽子もさほど気にしていない。けれどまさか、就任初日の啓五の耳にまで入ってしまうとは。

「陽芽子がうちの社員だったなんて、知らなかった」

 一人で恥じ入っていると、啓五がさらに距離を詰めてきた。顔を上げると、あの日と同じ瞳が陽芽子をじっと見つめている。

「私も、あなたが新しい副社長になる方だとは存じ上げませんでした」

 その瞳を見つめ返すと、そろりと一歩後退する。電話越しに怒られることには慣れているが、面と向かって怒られることにはあまり慣れていないから。

「先日はご無礼をいたしまして大変申し訳ございません。処罰はお受けします」
「……処罰? なんの?」

 陽芽子の言葉を聞いた啓五が、不思議そうに首を捻る。会うのは今日が二回目なのだから『先日』と言えば陽芽子の謝罪が示すものは分かるはずだ。しかし啓五は本当にピンと来ていないようで、自分の顎先を撫でながら本格的に考え込んでしまう。
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