スノーホワイトは年下御曹司と恋に落ちない

 啓五はもともと端正な顔立ちをしている上に、目付きが鋭い。少しぐらい冷たい言動があったとしてもそれが彼の性格だと判断されるだろうし、ましてこの場にいる大半の者が彼と初対面のはず。だから啓五が不機嫌になってしまったことなど、誰も気が付かないと思う。

 陽芽子以外は。

「かっこいいですよね、副社長」
「身長高いし、スタイルいいし。なんか芸能人みたいじゃないです?」
「いいなー、俺もあんな顔に生まれたかったな」
「ちょっと、声大きいわよ。業務中でしょ」

 啓五と鳴海が立ち去ったことを確認すると、陽芽子も自席へ戻った。そこでワイワイと盛り上がっていた部下たちを軽く叱責する。

 今は誰も電話応対中ではないが、業務中に無駄話をすることに慣れてはいけない。オペレーターの雑談を電話機が拾ってしまうなど、万が一にもあってはならないのだから。

 陽芽子の注意を受けてペロリと舌を出した部下たちに、陽芽子も苦笑いを残す。性別も年齢も様々な仕事仲間は、陽芽子を慕ってくれる素直で可愛い部下たちだ。

「ていうか、室長。鳴海秘書めっちゃ睨んでましたね」
「……やっぱりそう思う?」

 忘れた頃にポツリと呟いた鈴本の言葉に、啓五の傍に控えていた秘書の鳴海の様子を思い出す。

 無言の圧が怖すぎるので、途中から存在をないものとして会話を進めてしまったが、鳴海の冷淡な視線は常に陽芽子へ向けられていた。

 皆が啓五の登場に色めき立っている間、鈴本はその様子に気付いて鳴海の表情をずっと観察していたらしい。にまにまと笑いながら陽芽子の顔を眺める彼女が、悪戯を思いついたような顔をした。

「室長、鳴海秘書から貰いものしちゃだめですよぉ。白雪姫に届けられるものが、りんごだけとは限らないんですからね~」
「……」

 陽芽子の可愛い部下は、今日も陽芽子をからかうことに余念がない。
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