お見合い相手が変態御曹司でした

 何だか変な雰囲気になってきたので、私は話題を変えようと質問した。

「あのー、大変失礼な事を聞きますが、これまでご結婚を考えることはなかったのですか?」
「何故、そんな質問を?」

「えっと、柊平さんってかっこいいですし、キジマ自動車の創業一族なんですよね? お父様はグループ会社の社長だし、ご自身もその会社の役員で。だったら、その……私みたいなただの会社員じゃなくて、元華族のお嬢様とか、そういう方から縁談がくるのではと……」

 木島グループは、自動車を製造・販売しているキジマ自動車をはじめ、鉄鋼、繊維、不動産、住宅、金融などを扱う子会社・グループ会社を多数有している。しかも柊平さんは現会長の孫、いわゆる直系だ。
 私がしゃべり終えるのを待って、柊平さんは笑った。寒気がする程に綺麗だった。

「私の父のような事を言うんだね。案外、楓子ちゃんは封建的なのか……。なら、まわりくどい事せずに、権力を笠に着てあなたを力づくでモノにしてもよかったのかな」
「……はい?」

 柊平さんは優しく微笑んでいる。
 でも、さっきまでと温度が違う気がする。

「あなたの事を調べて、取引先の社長の娘だと知って、私がどんなにうれしかったか」

 あれ? 目が据わってない? やっぱり酔ってる? 大丈夫?

 私を見つめる彼の黒い瞳は、黒曜石のように冷たく無機質にみえる。白い肌が薄らと紅く上気して、微笑む唇はいっそ淫猥だった。温和で清らかな柊平さんはどこへ……?

「私の一存で、あなたの御父上の会社なんてどうにでもなるよ。だから私の言うことを聞いてくれる?」

 さっきまでと、声のトーンさえ違う。
 脅迫まがいの言い回しに、少し怯えつつ私は聞いた。


「何……? 何ですか?」

「あなたの足を舐めたいんだ」


 嗚呼、私のお見合い相手が変態でした……。


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