お見合い相手が変態御曹司でした

 帰途のタクシー車内で、私は新宿駅での遭遇を一生懸命思い出そうとしていた。
 家は品川だが、私の勤め先が新宿にあるので、私は毎日のように新宿駅を利用している。


 新宿駅、一日平均乗降者数が約350万人の、巨大ターミナル駅。新宿駅東口には、かの有名な歌舞伎町があり、新宿駅西口には東京都庁がある。JR東日本だけでも五路線十六線を有し、さらに私鉄その他も乗り入れている駅構内は、まさに魔窟。甲州街道側から見た新宿駅南口は、テレビ等でもお馴染みの風景だと思う。

(あんな、"人だらけなのにお互いが無関心な場所"で、どう出会ってるの?)


 約二ヶ月前といえば、残業続きで毎日フラフラだった。
 デザインの仕事がしたくて大学を出たけれど、さして才能もない私は、なんとか雇ってくれた小さな会社で私なりに頑張っていた。

 私の勤め先は、社員数が少ないのに明らかに業務量が多い。なのに残業代が出ない。
 人間関係は良好だったが、サービス残業が当たり前の、いわゆるブラック企業だった。この業界はそれが当たり前だと言われて、そうなのかと一所懸命に働き続けていた。


 ……そういえば、私は一度、新宿駅で倒れて救急車で運ばれたんだった。

 仕事が忙しすぎて、熱があるのに気づいておらず、山手線のホームへ上がる階段の途中で気を失った。幸い他人を巻き込むことなく、怪我をしたのは自分ひとりだったのだけど、もしかしてその時に現場に居合わせたんだろうか?
 だとしたら、相当カッコ悪かったと思う。次にお会いしたら、聞いてみようかな。

 そう考えながら、さっきまで一緒にいた木島さんの微笑みを思い出して、急に恥ずかしくなる。

 いや本当に、癒される系のイケメンだったわ。空気清浄機だわ。ほんと。

 そう思えば思うほど、「何で私なんだろうか」との疑問が澱のように残っていた。

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