キスで捕らえて俺のもの。





 ────幼い頃、母が再婚した。その再婚相手がとある有名建築会社の社長だったことから、俺はあれよあれよという間に、通っていた幼稚園から、金持ちの通うエスカレーター式の幼稚園へと転園することが決まった。


 当時泣き虫で弱かった俺は、いつも愛菜の後ろに隠れていた。けど、転園し会えなくなることが決まり、幼いながら自分に誓った。


 強くなって、愛菜を守れるようになる。そして本当にそうなれたら愛菜を自分だけのものにすると。


 言葉にすると頷いてくれた彼女を見て、早く迎えに行けるよう、空手に柔道、ボクシングにテコンドーまで、とにかく沢山の武術の習い事をした。そして小学校を卒業する頃には、すべての大会で常に上位三人の中に入るようになっていた。


 新しい父は、俺がしたいということに金は惜しまないし、何より母を大切にしてくれた。俺はそれだけで満足だった。自分自身満足いくほど強くなれたし、これで愛菜を迎えに行けると思った時、両親から爆弾を落とされた。
 


「許嫁が欲しいと思わないか?光喜」
「思わない」
「みっちゃんが許嫁を作ってくれたらお母さん安心だわ」
「安心していい。俺はもう心に決めた子がいるから」
「え?」
「は?」



 だだっ広いリビングでの夕食時に、胸糞悪い話題を出され箸が止まる。


 中学に入学したばかりの息子に許嫁なんておかしいだろ。けど、将来的に跡を継いで欲しいと考えている息子に、悪い虫がつかない為の予防線なんだろうが、とにかくありえない。


 俺の言葉に動揺した両親は、俺が愛菜のために努力をして強くなったと知った時頭を抱えていた。


 そして、揉めに揉め、最終的に俺が父自慢の愛車の窓ガラスをバットで叩き割る寸前で
ある条件を出された。



「お前が中学在学中の成績は常にトップ、将来経営を学ぶために大学に行くというなら、その子との交際を認める!!だから車はやめてくれ!!」



 勿論俺は習い事に並行し、死ぬ気で勉強をした。地頭が悪いわけではなかったから、そこまで苦労はしなかったが、中学を卒業するまで成績は常にトップだった。


 だがその代償に、俺はストレスのあまり喧嘩に明け暮れた。したくもない勉強のストレスの捌け口に、その辺に屯している不良やら、俺の評判を聞きつけてやってくる暴走族を片っ端からとにかくボコった。いつの間にか幼馴染までグレ始め、抗争が始まりそこを制すまでに至った。


 そして中学を卒業し、高校に上がって気づいた時には俺は学校内どころか学校外でも有名になり、昔からの幼馴染達とと共に暴走族の総長という立ち位置になっていた。


 何度かやめようとしたが、俺より強い奴がいない、尚且つ俺が辞めると不良や暴走族ののストッパーがいなくなる。治安が悪くなると引き止められ、今に至る。


 そして、言わずもがな父から自由恋愛をしてもいいと言質を取り、俺はやっと愛菜を迎えに行く準備を終えた。







 
 ────ガッ、ガッ、ゴキッ!!



「なーぁ、ミツ〜。いい加減よくね?そいつもう動かねーよ」
「…………あ」



 幼馴染の南に声を掛けられ我にかえる。南は棒付きキャンディをガリっと噛み砕き、飽きたようにパーカーの両ポケットに手を突っ込んで、薄汚れた路地の壁に寄りかかっていた。


 俺は、自分の拳についた赤黒い血を見て眉を顰める。怒りのあまりやりすぎたな、半殺しどころか殺す寸前までやってしまった。


 俺は男に馬乗りになったまま、血で染まったシャツの胸ぐらを掴み、原型を留めないほどぐしゃぐしゃになった顔を眺めながら、ゆっくりと口を開く。なるべく低く、威圧的な声、二度と外を歩きたくなくなるほどの恐怖をここで植え付ける。



「おい、お前。今度この辺で女襲ったら、このくらいじゃ済まさねぇぞ」



 俺が男の胸ぐらを放すと、男はそのままベシャリと地面に倒れ込んだ。処理は下の奴らがするだろう。南は男の写真を撮ると、誰かに電話をし始めた。


 あの男は、最近この辺で横行する、女子高生を狙った強姦事件の犯人の一人だ。被害者の一人が下の奴らの彼女で、あまりに胸糞悪い事件だった為、俺が首を突っ込むことにした。


 この事件を片付けたら、俺は愛菜を迎えに行くつもりだ。一緒に住むマンションも現在愛菜が通う高校ももう知っている。やっとだ、やっともう一度会えると想像するだけで、異常なほど胸が高鳴る。



「うぇ、ミツ。すげー顔緩んでる。喧嘩の時と人格違い過ぎだろ」
「うるさいな」
「また初恋の子のこと考えてたの?すげー一途。ちなみにどんな子なの?」
「俺だけの秘密」
「へいへい」



 南は呆れたように頭を掻く。するとその場に着信音が響く。鳴っているのは南のスマホだった。南は俺の顔をチラリと見た後電話を切り、口を開く。



「犯人の仲間、見つけたってよ。今女子高生をストーカーしてるらしい」
「へぇ、それじゃあ現場抑えよう」



 そして、その現場でまさか愛菜に再開することになるとは、その時の俺は全く想像もしていなかった。


 会わないうちに、想像以上に純粋に可愛く育った愛菜に深くキスをし、もう絶対に離さないと心に誓う。


 ────やっとだ。やっと、この子は、俺だけのものだ。




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