√セッテン
「二条のライブハウスはほぼ全部網羅。だけど何も掴めてない」

堀口俊彦の言葉に、全員に重い空気がのしかかる。

「地区を拡大して探そうか。山岡さんのこともあるし、余裕はない」

「俺と山岡は、明日午後からなら行けます」

「じゃあ、明日また探索だね。とりあえず、何か食べた方がいいよ。それからもう少し、探索条件の絞り出しをしようじゃないか」

堀口俊彦は、メニューをよそに、立幸館の指定カバンからケータイを取り出した。

「あの……死の待ち受けで死んだ、俺の彼女のケータイです」

テーブルにケータイが置かれる。

折りたたみで、小さなラウンドのケータイはパールホワイトで、表面には大きな傷がついていた。

電車に飛び込んだときに、衝撃を受けたのだろう。

こうやってちゃんとした形であるだけでも、奇跡のように思えた。

「渋谷景さんのか」

霧島悠太が言ってケータイを見つめた。

「景は、池谷とも仲がよかったから……まぁ、そのせいで死んだわけだけど。ケータイを見れば何か池谷とか、ムーントピックで死んだ奴らのこと、分るかもしれないので」

「かも、ってことは、まだ君は確認してないんだね」

霧島悠太は言ってケータイをすくい上げた。

見かけ半壊していたが、画面は生きている。

しょうこりもなく、0の血文字が点滅していた。

霧島はサングラスを取って画面を見つめた。

「見ても、いいかな」

「どうぞ」

カチ、と霧島悠太がメニューボタンを押した。

俺は横から見る気にはなれず、組んだ足に両手を乗せた。

しばらく無言の時間が過ぎる。

出された水の中に浮いていた丸い氷が、溶けてカランと音を立てた。
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