√セッテン
「ちょっと、これで満足?分かったら出なさい」

日比野の声で、はた、と現実へ立ち戻った。

ふらりと階段を上り、エントランスへ抜ける。

頭痛を通り越し、脳細胞が何10万個も崩壊した気がした。

「あ! 潤、どこ行ったのかと思ったよ、もう!電話しても出ないし」

正面入り口から出ると、敦子の声が降ってきた。

「あぁ……ちょっと中を……最後に見せてもらってた……」

力なく答える。

日の光がまぶしかった。

「黒沢」

「はい?」

堀口俊彦が、耳元にあてていたケータイを降ろした。

「お前、病院飛び出してきたんだってな。拝野先生がキれてる」

「あ……拝野?」

「昨日、お前の診断をしてくれた、ウチの病院の医者だ。飯島、お前も倒れたんだ、念のためウチにいくぞ」

堀口俊彦は言って敦子に声を上げた。

「大丈夫ですよ、ほら、だって……もう、死の待ち受けは消えたんですから!」

敦子は張りのある声で言った。

「それとこれとは話が違う」

「行くぞ敦子。山岡にも話しなきゃ……」

気力を振り絞って言うと、堀口が感心、と頷いた。

「あ、そうだよね、千恵も今頃、驚いて……あは! ホッとして泣いてるかもよ!」

敦子は嬉しそうに言ってケータイを開いた。

いつもの敦子の待ち受けだ。


死の待ち受けが表示されていないことに、一瞬違和感すら感じた。

蔵持が生きてあの場に閉じこめられていたこと

その可能性が渦巻いて、胸焼けに似たムカムカが胃を焼く。


霧島悠太は、日比野と話をしていたが、暫くして解放された。

コンビニの駐車場へ歩きながら、俺は無言だった。


蔵持七海は、見つかった……
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