√セッテン

屋上にて

目を開けた。

ソファーに横たわっていたことに気づいて、体を起こした。

何をやっていたのかよく思い出せず、立ち上がると軽く頭痛がした。


部屋は真っ暗で、外だけがぼんやりと明るい。

自分の家だ。

電気を付けようとフロアライトのスイッチへ手を投げると、外がパ、と明るくなった。


外へ視線を投げると、白砂海岸で花火が上がっていた。

あぁ、そうか今日は、花火大会の日だった。

暗い遠くの海の上で、牡丹の花のように咲いては消えていた。

夜に咲く大輪は目に映るのに

あの、心を突き動かすような、花火の音が俺にはもう聞こえない。

約束していたんだった、敦子と、山岡と一緒に、花火を見に行くんだと


視線をローテーブルに投げる。

テーブルには3つケータイが置いてある。


一番近くにあった、山岡のケータイを手に取る。


暗闇の中でもそのケータイは輝いて見えた。

赤い血文字の"0"が、心臓の鼓動のように点滅している。

指で画面を擦っても、擦ってもその血文字は消えない。


山岡は死んだ。

俺は救えなかった。

でも山岡は、最期の最期まで俺に電話をしないと叫び続けた。

電話をしないと叫んで、彼女は

「両手がなければ、電話も操作できないけど、千恵はそこまでして潤を守りたかったのね」

敦子が変わり果てた山岡の姿を見て、泣くのも叫ぶのも忘れてただ

あまりの恐怖に立つことができなくなった。

血の海の中、山岡は横たわり、3度口が小刻みに揺れた。

溢れた涙が、血の池に落ちて、苦痛に呻く中。

俺に、『生きて』と言った。

√の女が、ずたずたになった山岡の手を見下ろし、つぶした。

それで山岡の人生は終わった。

山岡は自身に発信し、最期の着信には自分の番号が表示されていた。


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