√セッテン
√の女は、ひどく冷たく笑った。

「もう誰もあんたに殺させたりしない!」

敦子の言葉に、√の女は目を細め呟いた。

「……偽善者」

敦子がキれた。

頬を叩く高い破裂音。

倒れ込んだ√の女は、余裕の顔で起きあがると、手にしていたケータイが照らしていた着信履歴から、ゆっくりと俺の名前の上を選択した。

「……!!!」

√の女は笑顔を浮かべたまま、通話ボタンを押そうとした。

霧島悠太も√の女が何をしようとしたのか分かって飛び込んだ。

「もうやめるんだ七海!」

「離して……!!」

√の女は言って、押さえ込もうとする霧島悠太を跳ね返す。

だが霧島悠太はめげなかった。

「どうして離せる、離せるわけがない、ずっと君を探してた」

「そんなもの、そんなものあなたの本心じゃない、ママに呪われて、その呪いのままにあなたが思い違いしているだけ」

「違う」

「愛してはいけない相手を、苦しむほど愛して、不毛だと思わないの。わたしはあなたの妹なのよ、まだ分からないの、わたしは死んで、あなたは自由になれたのよ」

「こんな自由なら、死んだ方がマシなことくらい君は知っているだろう!」

霧島悠太は、思い切り√の女の頬を叩いた。

その行動は、あまりに意外で、俺も敦子も動きを止めた。

乾いた音が、鼓膜をまだ震わせている。

そして、霧島悠太は自分のケータイを取り出すと、落ち着いた様子でアドレス帳を開いた。

指が何度が動いて、どこかに定まった途端、√の女の手にあった山岡のケータイが煌いた。


「出て」



霧島悠太は、呆然としたままの√の女にそう命令した。


着信は、√の女の手の中でキラキラと輝き続けている。
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