√セッテン
「ヤキソバ、あーん、てしてあげるし、遠慮しなくてい~よ?」

「ばか、そういうときは手離せよ」

「潤、じゃあ、わ、私も」

「山岡、お前もしなくていいから、敦子に毒されるな」

なにやら懸命に考えていた山岡を言葉の途中でストップさせる。

視界いっぱいに広がる初夏の海岸に、あふれかえる人の波

正直、混雑は嫌いだったが

たまにはこんなイレギュラーがあってもいいかな、と思える。


早足の敦子から、涼しげな下駄の足音。

「飲み物は、何にする? 敦子は、紅茶だよね、私も同じでいいかな」

山岡は俺の意見は聞かずに、空いていた片手でジュースを買った。


冷えた紅茶2つにオレンジジュースが1つ。

最愛のなっちゃんが山岡に抱かれていた。


白い浴衣の袂が蝶のようにひらひらと揺れている。

敦子の片手にはヤキソバとじゃがバタ。

山岡の片手には、ジュースが3本。

俺両手には、敦子と山岡。

しかし、何なんだ、この状態。

まるで三人四脚。


比較的空いているエリアに辿り着くと、やっと解放された。

会場の中心からは外れているが、波の音が聞こえるくらい海には近かった。

絡み取られていた両手が解放されて自由になり、冷えたオレンジジュースを額に当てた。

ここからなら、なんの障害もなく花火は見えるだろう。
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