√セッテン
山岡に言うと、そっか、と安心した顔をする。

「俺、授業終わったら敦子のとこ行くよ」

「私も…! あ、でもあんまり大人数で押しかけるのは、良くないよね」

「そうだ、河田。池谷美保のこと、教えて」

トン、と河田の机に数学のノートをのせる。

河田はニッコリと笑うと、缶コーヒーを置いて立ち上がった。

「んじゃ、コピー室でも行きますか。山岡ちゃんはどする?」

「私は友達と、ご飯食べてくるよ」

何か考え込んでいた山岡は、ぱっと顔を上げて微笑んだ。

友達グループへ走っていくのを見て、河田が思い切り肘鉄をかましてきた。

「おいおい、黒沢?どういうことですか?」

「どういう?」

「山岡ちゃんがお前のこと、潤とか呼んでたけど?」

それが何だ、という顔をすると、河田はコピー室に向かいながら説教じみた話を始めた。

「昨日は敦っちゃん家にお泊りだろ? で? 朝からなぜか山岡ちゃんがお前を名前で呼んでる。お前、何様だっつーの!」

河田が襲いかかってきて髪をぐしゃぐしゃにされる。

手をはじくと、河田が苦々しい顔をして俺を見ていた。

「黒沢、二兎を追うもの一兎も得ずだぞ」

「両方追ってないっつーの」

なんでもかんでもめんどくさい発想をする奴だな。

河田は、贅沢者め!とまた俺に肘鉄を食らわせてコピー室のドアを開けた。

コピー室は以前生徒指導の準備室に使われていた小さな部屋で、コピー機が3つ並んでいる。

ひとつだけある窓が開いていて、風が吹き込んでいた。

河田がコピー機の前に陣取ると、俺は窓のある奥まで歩いて行って椅子に逆座りをして外を見た。

小学校や中学校と違って、校庭で昼休みに遊ぶ奴なんかはいなかったが、女子が木陰で弁当箱を広げている姿はあちらこちらに見えた。

ほんのりと塩の香りのする風が景気よく吹き付けてくる。

目を細めて青空を見た。

「黒沢、テスト範囲のとこノート何ページ目から?」

「23ページ目。テスト範囲ココカラ、って付箋つけてある」
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