√セッテン
ジロリ、と視線を河田に投げる。

掴んだ腕を放せ、というサインだ。

「お前なら、自分のイトコがそんなことされて、ハイハイって済ませられるか?」

「あー……」

「答えは明白だろ? 1+1より簡単だ」

手を振り切る。

「安心しろ。俺はお前みたいに肉体派じゃない」

俺は河田を安心させたつもりだったが

河田は顔に影が入ってるよ、とひきつった。



「敦子、いつまでブスっとしてるんだよ」

放課後、階段を上りながら、コンピュータ室へ向かう。

「ブスっとするよ!潤のバカ……」

「お前ほどバカじゃありません」

「ほんっと、潤はバカだよ!」

「クラスのことくらい、自分でどうにかできたよ、藤田だってちょっとしたいたずらだったのに、潤がマジギレしたらしょーもないじゃん」

階段を先に上る俺に

背後からガンガンと言葉を投げてくる敦子。

「マジギレなんてしてないって」

「じゃーなんで、藤田が謝ってきたりするのよ」

「それは俺が、丁寧に事の顛末を説明したからだろ?」

河田じゃないんだ、乱暴なことはしない。

「どう説明したのよ」

「机の上に花を置くヒマがあれば、参考書でも置け」

踊り場まで登り、振り返ると敦子は案の定、俺を睨んでいた。

「花にしろ参考書にしろ、もっと気の利いたものが置けない男じゃ、敦子に嫌われて当然だな」

一字一句間違えないように敦子に伝える。

敦子の顔がタコのように赤くなっていく。

「ガキでもあるまいし、ネタの待ち受けに調子乗るな、以上」

「そ、そんなこと、人のクラスで私がいない間に」

「そんなこと?」

敦子が強がっているのは手に取るように分ったが、ここはハッキリさせたかった。

「お前が泣いてるのに、そんなこと、とかで済ませられるって?」

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