薄氷
須田(すだ)陽澄(ひずみ)です。よろしくお願いします』

まだ言い慣れない苗字でぎこちなく自己紹介をしたのは三日前だ。ちなみにちょっと前までは福浦という苗字だった。見事に福には見放された。

時期外れの東京からの転入生というだけで注目されて、初日は他のクラスからも見物人が来るほどだった。パンダ気分で落ち着かず、好奇心から話しかけてはもらえても、なかなか波長が合う相手には出会えない。

よかったら放課後ちょっと残らない? と梢に訊かれて、「うん」とできる限りの感じのいい笑顔で答えた。

田舎には近場にファーストフード店やカフェやファミレスが無い。そういった店は駅の周辺にしかないし、学校からだと徒歩でゆうに三十分はかかる。放課後におしゃべりしたければ、学校に居残るしかないらしい。
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